各種証明書を取得するのに立ち寄る「役所」といえば、混雑や長い待ち時間のイメージが強い場所でもあります。
そんな“永遠の課題”に、デジタルの力を使って真正面から向き合ったのが、東京・三鷹市役所です。
三鷹市役所市民課総合窓口では2021年1月18日、都内の役所では初となる「キャッシュレス決済」と「セミセルフレジ」の同時導入を果たしました。
それにより混雑や待ち時間はどうなったのかを、導入を担当した同市役所 青木涼子主査にうかがいました。
三鷹市について
人口約19万人。「水と緑の公園都市」のキャッチフレーズ通り、 23区に隣接しながらも緑が豊かで暮らしやすいことが魅力。
時代の空気感をいち早く捉え、市民ニーズに合致したさまざまな取り組みを行っている。
コロナ禍がキャッシュレスの大きなきっかけ
なぜ市役所に「キャッシュレス決済」と「セミセルフレジ」を同時に導入しようと考えたのでしょう?
もともと三鷹市役所では、各種証明書を発行する際の手数料のお支払いは、現金のみに対応していました。そんな中、最近はご利用者様から「電子マネーは使えないの?」「クレジットカードは?」「他の場所では使えるのに…」といった声も寄せられておりました。また、総務省や経済産業省がキャッシュレス決済を推進する政策を進めていることもあり、お支払いのキャッシュレス化は検討課題となっていたんです。
そんな中、2021年1月のタイミングで導入した理由は?
大きなきっかけの1つとなったのが、新型コロナウィルス感染症の感染拡大です。現金の受け渡しをする際には、どうしてもご利用者様と職員の接触が起こってしまいます。また密を回避するために、ご利用者様が所内に滞在いただく時間を、できるだけ減らす必要も出て参りました。
そこで年度の途中ではありましたが、4月の繁忙期までになんとかキャッシュレス決済とセミセルフレジを実現しようとなり、導入時期を1月に定めたんです。4月の繁忙期までに職員が新しいオペレーションに慣れるには、遅くとも1月には導入する必要があるだろうとの判断でした。
混雑を緩和する取り組みは、これまでも行ってきましたか?
はい、実はこれまでにも窓口の混雑状況を公開するシステムや、増加するマイナンバーカード交付の予約システムの導入、あるいは証明書の受け取りが当日でなくてもOKな方は後日郵送する仕組みを採り入れるなど、待ち時間や滞在時間を減らす取り組みを行ってきました。
それでも、最後のところで現金の授受というリスクがどうしても発生してしまいます。そこに、矛盾のようなものを感じていたんです。
キャッシュレス決済とセミセルフレジを同時導入したのはなぜですか?
キャッシュレス決済だけであれば、もともとあるレジ機を変えなくても導入できるので、まずはキャッシュレス決済だけを導入する自治体様は多いかと思います。
ただ当市としては、もう1歩踏み込んだ対策をということで、現金を人の手を介さず自動精算できるセミセルフレジもあわせて導入することに踏み切りました。
できる限り多くの決済手段に対応したい
どのようなスケジュール感で、導入を進めましたか?
導入の検討が始まったのが2020年夏頃で、各種予算が通って事務手続きを進められるようになったのが、11月の頭でした。そこから翌年1月半ばまでの2ヶ月半で、取引企業様とのやりとりや、内部での調整を進めました。
導入にあたっては、特にどんなところにポイントを置きましたか?
最も重視したのが、交通系ICをはじめとする「電子マネー」と、各社の「クレジットカード」、PayPayやLINEPayなどの「QR決済」という、キャッシュレス決済の全手段が使えるようにすることでした。
また、たとえば電子マネーの中にも、いろいろな事業者様のサービスがあります。それはクレジットカードでも、QR決済でも同様です。そうした各事業者様の決済サービスを、できる限り使えるようにしたいなと。対応できる決済サービスの種類が多ければ多いほど、ご利用者様にキャッシュレス決済を使っていただける割合が増え、より我々の課題解決にも近づくと考えたからです。
それとキャッシュレス決済をする際に、職員が金額をPOSシステムと決済端末に2度打ちしないで済む形にすることも、必須条件でした。2度打ちは、オペレーションミスを生む大きな要因になり得ると思ったからです。
職員様へのレクチャーは、どのように行いましたか?
準備の期間が限られていていたこともあり、実機を使っての職員へのレクチャーは、2日間で行いました。それとあわせて作成したのが、システムの取扱説明書の内容を抜粋してまとめた、「困った時はこうしましょう」という独自マニュアルです。PDFでも配付しましたが、それをプリントアウトして現場に常に置いておくようにしました。
導入するにあたって、特に大変だったことは?
やっぱり限られたスケジュールの中で、前例のない手続きを各部署と調整しながら進めていくのが大変でしたね。内部の会計処理もこれまでとは違うものになるので、その調整をする必要もありました。
約6万6千回の証明書交付手数料の現金授受が一切なくなる
いざキャッシュレス決済とセミセルフレジを導入してみて、率直にどう感じましたか?
まずは、ご利用者のみなさんが思った以上にスムーズに使っていただけるなと感じました。やはりキャッシュレス決済やセミセルフレジは、民間の店舗様ではけっこう使っていらっしゃるので、みなさん慣れているなと。
あとはやっぱり、キャッシュレス決済を導入することで、ご利用者様の滞在時間が短縮されることを実感しました。お一人あたりは1~2分の短縮であっても、それが積み重なると、1日トータルで30~40分とか数時間になっていきます。だから、こうして業務の仕組みそのものを整えることは、やっぱり重要だなと。
もちろんセミセルフレジも便利なのですが、こちらはお金を選んだりお釣りをしまう時間が発生するので、時間短縮の点ではやはりキャッシュレス決済の効果が非常に大きいです。
どのくらいの人が、キャッシュレス決済を選びますか?
現状では、全体の15%ほどです。キャッシュレス決済の中の大まかな内訳は、電子マネーが約5割・クレジットカードが約2割・QR決済が約3割です。支払いが高額だと、クレジットカードを使う方が多くなります。
職員様のオペレーションに関しては、いかがでしたか?
職員サイドで言えば、導入後しばらくはオペレーションに関する問い合わせが、私のところにいくつかありました。たとえば「クレジットカードが読み込めません…」と言われて見てみると、一つ前のレシートが抜き取られておらず、処理が完了していなかったり。
他にも、「ご利用者様が打ち込む暗証番号を、どうすれば見えなくできますか?」との問合せもありました。それに対しては、「民間のお店様と同じように、はっきりと目をそらすなどで対応してください」と伝えました。
導入後ご利用者様からは、何か声はありましたか?
「すごく便利になったね」といったお褒めの言葉や、「市役所でもこういうのを取り入れるのね」と感嘆の声をいただきました。導入にあたっては大変なこともありましたが、それを聞いてあらためて「導入してよかったな」と感じました。
実際のところ、これまで市民課総合窓口では年間約6万6千件の証明書等発行を行ってきましたので(※2019年度実績)、要はその6万6千件の現金授受が一切なくなることになります。あわせて、証明書受け渡しまでの時間も短縮されます。
全27種のキャッシュレス決済を1つの端末で
実際に使ってみて、PayCASのキャッシュレス決済システムには、どんなメリットを感じましたか?
まずとてもありがたかったのが、キャッシュレス決済用の端末が1つで済むことです。実は導入する際には、電子マネーでの決済はこの端末、クレジットカード決済はこの端末と、複数の端末が必要なシステムも候補に挙がっていました。ただ、役所の窓口では会計だけでなく証明書を受け渡す業務もありますので、スペースは限られます。だから端末が1つで済むことは、大きな魅力になりました。おかげで、整理整頓された状態で窓口業務を行えています。
端末といえば、決済処理の速さも実感しています。私自身がお客としてお店でクレジットカードを使う際は、けっこう待つこともあるのですが、そういった待ち時間がほぼなく、スムーズに処理が行われる印象です。
それともう1つ、入金確認がとてもラクですね。
入金確認がラクとは、どういうことでしょう?
当窓口で対応可能なキャッシュレス決済は、各社のサービスを全て合わせると全27種類に及びます。したがって、各事業者様から別々に入金が行われると、そのぶん業務が非常に煩雑になります。
ところがPayCASさんのシステムでは、各事業者様からの入金がまとめられ、PayCASさんからの入金に1本化されます。だからこれだけ多くの決済サービスに対応していながらも、入金確認の手間が大きくならないんです。
今後、三鷹市役所の窓口業務を、どのようにしていきたいですか?
キャッシュレス決済の比率が高まれば高まるほど、ご利用者様と職員双方の手間や感染リスクが減ることになるので、そこをもっと高めていきたいですね。約15%という現状の数字を、30~40%まで上げるのが喫緊の目標です。
さらには窓口の手続き自体もデジタル化を進め、「スムーズに証明書を取得できる」とか、「そもそも役所に来なくても用が足りる」といった形にしていきたいです。
キャッシュレス決済とセミセルフレジに関しては、当役所内の各部署から導入に関する問い合わせがきています。この仕組みが他のセクションにもどんどん広がり、市役所全体が「新しい生活様式に対応した窓口サービス」となったら、すばらしいですね。